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閑話究題 XX文学の館 談話室

別冊太陽「地下本の世界」も補遺


平成十一年七月に平凡社から刊行された別冊太陽「発禁本」(構成・米澤嘉博)の続編として「地下本の世界」が刊行された。 「発禁本」と同じく米澤嘉博氏の構成であるが、前回も少し混じっていた地下本を今回は主題にしている。 カラーによる書影の掲載を主とした誌面構成は前回同様であるが、発行日が2001年6月26日と一月遅くなっているのは雑誌故か。 前回は発禁本の蒐集家、研究家として著名な城市郎氏のコレクションから成っていたが、今回はそれに加えて構成者の蒐集分も含めたとのことで、前回のような「城市郎コレクション」というフレーズも外してある。

全体的に見て、孔版の地下本が豊富である印象を受ける。もちろん活字で刊行された地下本もたっぷりあるが、こちらの方は当館所蔵分とダブっているものが多いので、その辺の影響があるかも知れない。それにしても、想像以上にダブリが少ないことに驚かされる。 ある程度予想していたこととは言え、この分野の底がいかに深いかを痛感させられた。とても個人の手に負えるものではなく、多くの研究者の協力体勢が必要であることも改めて実感させられた、とはいえ当面は個人の更なる精進からであろう。

書誌の研究に書影は欠かせない、という館主の主張をてんこ盛りに実現してくれている両誌から得ることは多いが、別冊太陽「発禁本」勝手に補遺でも述べたように、完璧な書誌というのはなかなか実現できない。特にこの分野に於いては書誌の基礎である著者、発行所、発行時期がほとんどの場合特定できないという致命的な欠陥を内包するが故に、研究者同志がお互いの研究成果を精査し直して、初めて正しい書誌が完成すると考えている。

そのような観点から、今回も別冊太陽「地下本の世界」の補遺も作成した。発禁本とは異なり、地下本は当館の専門でもあるが、自信を持って間違いを指摘できない所が辛い。修行が足りないと反省することしきりである。

尚、以上のような理由により、当館で公開している論考他に対する指摘があってもいいとは思うのであるが(実際勘違いなどの記述ミスはあり、気が付く度に修正はしている)、他所からの異なる見解の指摘が一年で一件しかないのは何故?やはり見てもらえていないということか…。なんだかなぁ…。

今回(平成十五年五月五日)追加分は、表の背景が   色になっています。
凡例
:明らかに間違っているもの
:間違っていると疑われるもの
正しいと思われるもの
:確認できないが正しいであろうと推定されるもの
追加すれば完璧になると思われるもの
:館主個人の感想(独り言)です

性と科学の知識
相対会の闘い
24謄写、筆写、活字などで少部数発行されていた資料
筆写により頒布されたものの存在を知らない。確かに、当館にも筆写された資料が所蔵されてはいるが、これは原本が手に入らなかったための写本と考える。
総ての刊行物に捺印を押し
小倉ミチヨが世話人となり、自らガリ版を切るなど報告頒布の主体になったもの以降にはサインと押印があるが、 小倉清三郎が主体となって刊行した雑誌、大正期のガリ版資料に押印はない
25『相対会第一組合特別会員と恩人(昭和初期)』の「昭和初期」ってなに? 大正時代に亡くなっている人も居るようだが…。書影も見開きと一頁分掲載されているが、一頁余分に出すのであれば残りの十人分だけ抜けているのは何故?。
小倉ミチヨの手になる復刻版には、「昭和初期」という文言は入っていない。 つまり、この書影は復刻版ではなく、美学館による再復刻版のものである。 それならそうと、キャプションを入れておけばいいのに。十人分抜けている理由は再復刻版もその部分が抜けており、全員掲載したつもりなのであろう。 抜けている部分は最後の一頁分であり、第三回「とほほな「相対」再復刻版」と同じ理由によるものと思われる(このリストも第三十四号の巻末に収載)。 再復刻版も或意味地下本ではあるので、そのこと自体に問題はないが、その旨の記述が欲しい。本物の復刻版を見た人が混乱した発言をされても困るので。 逆の混乱ぶりは 「相対レポートセレクション」の解説に思う河出文庫「相対レポートセレクション」解説校異の例がある。

「相対会研究報告」故小倉清三郎研究報告顕彰会復刻 …略… 限定500部 四六判

アンカットなので何とも言えない点もあるが、裁断を寸法を考慮した場合、刊行者も述べている如く、B6判が正しい。

会員制頒布術
会員制雑誌と頒布会組織
33
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「変態知識」「カーマ・シャストラ」といった北明の関わった特殊雑誌は
「変態知識」というのも聞いたことがあるような気はするが、北明が関わったものの中にはないと思う。この場合は「変態資料」のことではないだろうか。
34
33
「あまとりあ」の読者に対するサービスとして始まった「誌友通信」から発展した「生活文化」は
この部分は「発禁本」の時と同じであるが、今回は【誌友通信】の書影が五十一頁に掲載され、刊行時期が昭和三十年八月〜昭和三十一年六月と明記されている。 一方五十頁の「生活文化」の書影には刊行が昭和二十八年二月〜昭和二十九年五月、「造化」が昭和二十九年七月 〜 昭和三十年四月と記述されており、【誌友通信】発行前に廃刊になっているのが分かる。 従って、それらの雑誌が【誌友通信】から生まれる訳がない。もしかしたら、館主も知らない、本誌にも掲載されていない【誌友通信】があるのだろうか?
これを受けたのが「造化」だった。…略…この会誌も九号で同様の運命をたどり
単なる誤植か。五十頁の書影のキャプションにもある通り全十冊が正しい。

「新生」の二号、四号は孔版印刷であり
創刊号も孔版である。
長きにわたって活動を続けた岡田甫の「近世庶民文化研究会」、花咲一男の「風俗資料研究会」、林美一なども…略…会員内頒布という形で行なっていた。
何故、林美一だけ主宰していた会を記載しないのであろうか。氏が主宰していたのは「未刊江戸文学刊行会」である。氏が亡くなるまで、会が正式に解散したことはない。
予約会員制猟奇雑誌
37前回指摘した【稀漁】(巫山房)全四冊が早速掲載されている。この蒐集力はさすが!!
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「CURIOSA(奇書)」XIII、XIV、XV A5判
「発禁本」でも書誌情報がなかった東京限定版クラブの「奇書」であるが、書誌情報を追加する。全十六冊、1952年5月1日 〜 1954年7月(?)。終刊に就いては推測。雑誌資料【奇書】 を参照。
『SEXUS I』 木屋太郎訳 東京限定版クラブ B6判背クロース装 上製 市販公刊本
書影とキャプションの他所を見る限り、会員限定版の非公刊本と思われる。
芋小屋山房の職人仕事
43お、今度の「女礼讃」二百部本はパンツを穿いて、はいないが元の姿のままである
日本生活心理学会 会員頒布物
46「性犯罪記録集」 昭和31年頃 日本生活心理学会 B6判 袋綴 孔版
書型は168×243なので、B6判ではない。
48
「ATLAS OF LINGAM AND YONI」(りんが・よに参考資料「特集 性器衛生図譜」、「図譜、第3〜12図譜」)
書影として掲載されているものの説明としては正しいが、その他の情報を追加する。図譜は全部で第十八図譜まで、特集が第三特輯までの計二十一図譜関連資料「りんが・よに参考資料圖譜」 を参照。
戦後 性の会員制雑誌
50【豊艶】全五冊の掲載は流石である。この雑誌は軟派系ではあるが、むしろ趣味誌といった方が正確であろう。 発行部数が二百部と少ないことと、戦後間もなくの昭和二十二年年の刊行、広島という地域が当誌を稀覯誌化している要因であろうか。一号〜四号までの全五冊、という変則的な形態の意味するところは、書影にもある通り、改訂一号という二冊の第一号があるからである。 当誌は当館にも所蔵されているが、惜しむらくはこの改訂一号〜四号の四冊のみで、一号の初版が無い。これが当館に架蔵される日は来るであろうか…
「新生」創刊号(全5冊)川崎清一編刊 昭和30年6月(〜30年末頃)新生活研究会 菊判
終刊は昭和31年3月頃(推定)。判型は各冊バラバラで、1、2号は菊判(多少大きさが異なる)、3、5号はB6判、4号はA5判雑誌資料【新生】 を参照。
51「瓦版」第1号 東都古川柳研究会
「瓦版」は近世庶民文化研究会(後に近世庶民文化研究所)の会報。 会報内に東都古川柳研究会云々の記述があるのは、同会を主宰していた岡田甫が近世庶民文化研究会を始めたためである。 「近世庶民文化」と「江戸紫」 参照。

戦前の珍書・秘本
明治・大正・昭和初期地下春本の流れ
58当時「袖と袖」は毛筆こんにゃく判(ガリの形態)で流布
寡聞にして「毛筆こんにゃく判」という言葉は聞いたことが無い。普通は「毛筆孔版」或いは「こんにゃく版」と言うのではないだろうか?こんにゃく版の原稿が毛筆であったということか?
性の道楽出版
67「発禁本」では特に記述されていなかった{世界文学叢書}の第八巻が『るつぼはたぎる』であると明記されてしまった。
もう一度補足する。「るつぼはたぎる」世界文学研究会からも頒布されたのは事実であるが、同会の刊行かどうかは怪しい。 また、{世界文学叢書}の第八巻は六十八頁に掲載されているものと同じ「性界聞覺草書 蜂之巻」である。六十八頁に掲載されているものと同じという意味は、同頁のものは印刷屋(?)の横流し分であろうと想像できるからである。 記述されている所載作品の『淫書開好記』は第十四編からであり、叢書の第七巻の同作品からの続きになっている所からも疑問の余地はない。 尚、書名の「性界聞覺草書 蜂之巻」を声を出して(別に出さなくともいいが)読んでもらえれば、「世界文学叢書 八の巻」の字を変えただけであることが分かると思う。 世界文学叢書と「るつぼはたぎる」 を参照。
『大和三国誌(通俗堪麁軍談)』(『世界文学叢書』増刊号)
「大和三国誌」は種々の理由により、増刊号ではなく第五号であると考えている。 世界文学叢書と「るつぼはたぎる」 を参照。

戦後ガリ版本の世界
四十八手のあの手この手
107
108
やはり「百手秘技図」はまだまだありそうである。全部で何種類ぐらい出たのであろうか? 態位集に就いては 態位集系譜考序説 参照。
焼跡の中の様々な試み
117「不死鳥」と「旅役者」のキャプションに同じ書き出しの部分を記載するのではなく、片方には両書は内容が同一の異本である旨の記述が欲しかった。他のものにも同じことが言えるが、折角現物を書影で見せているのであるから、異本関係の記述は是非欲しい。書誌の第一歩である(当方の手間が省けるという打算もない訳ではないが…)。

掲載されている以下の書影は原本ではなく、近年復刻頒布されたものではなかろうか。
ガリ版本の定判
100「情痴放浪記」、「秘帳」(どうでも良いけど「定判」は「定番」の誤植?
五十音順 地下本オンパレード
123「競妍」(?)
136「女人の宿」
147「私の思い出」

上記の冊子もそうであるが、混乱の元になるので、何の記述も無い表紙に題簽を勝手に貼らないで欲しい

翻刻本の色々
164浮世絵艶本の絵そのものは写真別送、伏字部分は後送といった手段がとられることも多かった。…略…、林美一、花咲一男、母袋未知庵…略…などがそうした仕事を手がけ
母袋未知庵は「川柳四目屋攷」で筆禍にはあっているが、江戸艶本の翻刻や資料の頒布は行っていないと思う。

「発禁本」に比較して、解説などの内容が後退してしまったのは何故であろうか。ケアレス・ミスと思われる記述の不整合も目立つ。不思議だ。

それはさておき、第三弾が今秋出る予定だそうだが、今から楽しみである。


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