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閑話究題 XX文学の館 駄文雑録

そもそもの初め

「蚤の自叙伝」と「バルカン戦争」

地下本を蒐集し始めるようになったきっかけは、勿論そういうこと(集めることでは無く)に興味があったからです(当たり前ですね)。しかし、何処其処の本屋に行けば売っている、と言うものでは無く、第一どのような本が有るのかすら分かりません。具体的な知識が無いために、手も足も出ないのが実状でした。

当時は別の趣味に熱中していたこともあり、色々調べる等の積極的な行動は起こしませんでした。本は元々好きでしたから、通勤途中の新刊書店には足繁く通っていました。そんな或日、書棚に何気なく置かれていた「地下解禁本」(小野常徳、KKベストセラーズ)が目に止まりました。内容の一部を立ち読みして、これこそ探し求めていた地下本の梗概と解説であることが分かりました。早速購入し、帰宅途中の電車の中で読み始めたのは言うまでもありません。

著者紹介欄から、同氏が同じ出版社から上梓している「発禁図書館」なる同類の本が存在することも分かりました。これは、探すのにそれ程時間は掛かりませんでした。

二冊の解題やコラム欄から多少の知識が得られると、古書店で書棚を見る目も変わってきます。具体的な書名が分かっているのですから当然です。が、街の古本屋を幾ら探しても、望むものは何処にも見当たりません。

或年の夏休み、一大決心をして、一週間ぶっ続けで神田の古本街を端から端まで歩き回りました。小川町から九段下の交差点、神保町の交差点から飯田橋、近辺の裏通り、等目に付いた古書店という古書店総ての棚に目を通しました(とは言うものの見落としはいっぱいあったでしょうね)。

しかし、そこで発見したのは「蚤の自叙伝」「蚤の浮かれ噺」(原一平訳、東京書院)「バルカン戦争」(矢野正夫訳、東京書院)の二冊のみです。両方とも戦前の元本は地下本ですが、これらは戦後の公刊本です。但し、摘発は受けているので所謂発禁本ではあります。一週間掛けた成果は殆どゼロと云う有り様でした。

確かに、解説書には『現在ほとんど入手不可能』と記述されており、本当に無いのかとガックリしたものです。但し、ほぼ毎週末神田の古書会館で行われる古書即売展の存在を知ったことは、その後の展開に大きな影響を与えることに成ります。

地下本が無理なら発禁本でもと(正しくは、当時地下本と発禁本の明確な違いを認識していなかったこともあります)宗旨替えをしてせっせと展覧会通いをしました。東京の場合、古書会館は神田の他、南部(五反田)と西部(高円寺)にも在り、そこで開かれる古書即売展、デパートで行われる古書即売展、等知りうる限りの展覧会に行きました。

考えてみれば当然のことですが、地下本(発禁本の一部も)は当時(多分大部分は今でも)発売すると刑事罰の対象になりかねないしろもの(本文ではなく口絵の写真が)ですから、店頭で販売しているはずがないのです。古書即売展でも流石に地下本は殆ど有りませんでしたが、発禁本はかなり有りました。

古書即売展に通うことで、即売展主催の各会が発行する目録の存在を知り、さらに各古書店が発行する目録を入手するようになりました。また 、古書に関する情報入手のために定期購読を始めた「日本古書通信」を通じて、或書物交換会の存在を知り、 そこでのやり取りから同じ志を持つ人を何人か知ることになります。

また、目録には稀に地下本が載ることがあります。目録の場合は抽選であったり、早い者勝ちであったりして、常に入手出来る訳ではありませんが、成績は割と良かったように記憶しています。そのような目録買いを通じて何店かの古書店とも懇意にさせて頂く事が出来、漸く地下本の本格的蒐集が始まることになります。


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